住むコト -大田区のまちづくりを考える-

大田区でまちづくりの活動をしている「住むコト」の活動ブログです

【都市マス】住むコトメンバーの公述③

住むコトから5人のメンバーが東京都の都市計画マスタープランに対しての公述その3です!

 

sumucoto.hateblo.jp

 

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大田区在住の神田順と申します。大学で主に建築構造学について研究・教育に
携わってまいりました。現在は、建築基本法制定準備会という団体の会長とし
て、我が国の建築制度のあり方について、提案や提言を行っています。現状の
法制度では、短期的な市場経済の原理が優先して質の高い建築が生まれにくく
なっていることを危惧し、新しく建築基本法の制定のための運動を展開してお
ります。
都市計画区域の整備・開発及び保全の方針(原案)に対して、区部を対象とし
て意見を述べさせていただきます。「東京都市計画原案」は、2017年9月発行
の「都市づくりのグランドデザイン」(A4版208ページ)の内容をもとに、そ
れを都市計画のための言葉に置き換えたのみで、今般のコロナ対応の問題が視
野に入っておりません。生活のあり方、都市のあり方を考えると、根本的な見
直しが必要ではないでしょうか。原案のまま進めることに対しては、大きな不
安を覚えるものです。

基本的な考え方ということでは、目標としてESGやSDGsへも言及されていま
すが、ただ考え方を取り入れるのみでなく、まさに、SDGsの17の目標一つ一
つが反映されることを基本とする都市計画にすることが必要です。都市づくり
戦略としては、言葉を変えて、さまざまなキーワードを織り込んで8項目を挙げ
ていますが、総花的な戦略では、今まで同様に、民間事業者任せの建築する権
利の保障にしかなっていません。10年、20年さらには50年先を見据えると、戦
略③の災害リスク低減と環境問題対応を最優先する形で、東京の都市計画の明
確な方向性をうたうことが必要です。そして、それをポスト・コロナの都市の
あり方として、新しく計画し直す必要があると考えます。
まずは、人口減少社会における東京の都市計画をどのように考えるかについて
具体的に提案をさせていただきます。現実の統計を見ると、当初想定していた
ようには東京の人口は減少していません。むしろ微増です。それは、東京の一
極集中がまだ続いているからです。これをこのまま放置してはいけません。こ
のことは、今回のコロナの問題そのものでもあります。我が国で東京が、まず
第一に新型コロナ感染症の脅威にさらされたことを思うと、都市計画において
も、一極集中を是正し地方の活性化を支援することです。東京として具体的に
どのようにしてそれを可能にするかということを考えると、人口の流入を抑え
、建物の総床面積を全体としては縮小していくことではないでしょうか。これ
は、直接的に災害低減にもつながります。
人口流入の問題は、税法上の問題ともかかわり対応が難しい面がありますが、
私の住まいの近くの例をあげてみます。例えば200㎡の土地に1家族4人で住ん
でいたけれど子供が巣立ち、別のところに住む。親2人になり、やがて亡くな
ると、土地は開発業者の手にわたり、業者は売れるように3分割して3軒の3階
建てに変わる、という状況があちこちで起きています。あるいは、若者用のワ
ンルームアパートとして経営するということで、もっと極端に人口増を奨励す
るような場合も多くみられます。結果として住まい方は過密となり、当然緑地
面積は減らされ、住環境は悪化してしまうわけです。これを変えるのは、個人
の努力だけでは不可能です。都市計画として、このような事態が生じないよう
な政策と規制が不可欠です。すでに地価が高騰している中で、都区内ですべて
の家族に200㎡の土地を提供することが無理であることは想像できますが、少
なくともそのような住み方が引き継がれるような制度を考えるとともに、政策
としてのワンルームアパートの規制なども含めて、人口流入を都市計画として
抑えることを考えなくてはいけないと思います。
住宅の持ち主が亡くなると、空き家となる可能性が生じてしまいます。これも
大きな問題になっています。安易に経済原理に委ねると、すでに述べたような
状況が生まれてしまうので、そうならないように税法上の優遇措置なども考慮
に入れて質の高い住生活が可能となるようなしくみを考える必要があります。

スクラップアンドビルドではなく、ストックマネージメントとして展開できる
ように、都市計画でも方向性を明確に示すべきだと考えます。
戦後の住宅政策も、当初は公営住宅と公団との2本立てでスタートしたものが
、ほぼ需要が満たされるにしたがって、今や民間マンションの新築による市場
経済に任せてしまったことが、景観の面でも環境の面でも問題を生じています
。財政面を考えると公営住宅を増加させることが容易でないことは想像できま
すが、50年100年を考えると、セイフティネットの意味からも自治体の果たす
べき役割は大きいです。改築や減築などのストック活用により、質の高い中低
層集合住宅を、都や区が積極的に社会資産として運用していくべきです。良質
な住宅を長く活用できれば、結果的に社会の豊かさにもつながります。少しず
つでもその方向を都の姿勢として示してほしいと思います。
以上は、どちらかというと大田区としては、大部分が相当する新都市生活創造
域を対象とする意見になっていますが、ビジネスに重点をおいた中枢広域拠点
域に対しての都市計画の問題も、総床面積を、全体的には抑制の方向での検討
が必要だと考えます。と同時に、中枢広域拠点域であっても住宅は広く展開し
ており、今後も中低層居住地区の保全・整備も欠かせないのに、そのような視
点が認められず、頻繁に「建て替え促進」の言葉が登場しているのは、問題で
す。また新都市生活創造域であっても、すでに大規模事務所ビルが集中してい
る地域もあります。東京都区部をこのように2つに区分して都市計画のキーワ
ードを色付けすること自体に、無理があるのではないでしょうか。
大田区の場合、特に気になるのは、羽田空港周辺です。羽田空港の拡大は、今
年4月から始まった、増便のための新地上ルートなど、区の住民としては迷惑な
面が少なくないことは想像できると思います。また海上移転に伴う空港跡地は
国家戦略特区としての新しい拠点として位置づけられていることもあり
、SDGsの基本を逸脱する懸念が大きいです。国や自治体が大企業とともに経
済的な有効性をねらうことにより、住民視点での環境や自然環境配慮などが、
すでに軽視されて来ています。都市計画としても、将来計画に対して住民が積
極的に意向を示しやすいしくみをつくり、住民合意を前提としたまちが作られ
るよう配慮してほしいと思います。都としても区単位での防災を都市計画の中
にどのように位置づけるか、緊急の課題です。
これまでの意見を、具体的な形で都市計画に有効に展開することは何かという
と、緑化空間の増大です。人口減少社会で、さらには自然災害リスク低減を都
市計画の中に展開するには、緑と水辺空間の充実こそが有効な方法です。従来
の都市計画では、交通の利便性や効率性を重視し、災害ハザードを理解し、読
み解いて、都市計画に展開することをしてきませんでした。今や地震や洪水の
ハザードは地形や地盤、標高などとも関係し、調査研究の成果として誰でも見
られるようになっています。ハザードを理解した上で、リスクを減らすために

、都市計画の中での、明確な規制や誘導が必要です。都市計画が災害ポテンシ
ャルを考慮して作られて来なかったことは、大きな反省点になっています。是
非とも東京の都市計画の中では、災害低減を明確に位置付けてほしいと思いま
す。
区部の公園や緑地の現状は、何と言っても、とても貧弱です。過密を防ぐ意味
でも、自然災害を低減する意味でも、有効な緑地空間の配置・拡大を全区部に
、積極的に都市計画の中でうたうべきです。駐車場を緑化するだけでも地震
火災へのリスクは低減できます。従来は大規模開発での公開緑地など極めて限
定的にしか行ってこなかったと言えます。これからは東京都区部の緑化面積の
増大こそが、都市計画のねらいであり、SDGs対応でもあると、胸を張って言
えるものにしていただきたいことをお願い申し上げて、私の意見陳述とさせて
いただきます。